ムンバイの喧騒を離れ、アラビア海へと伸びる一本の細い道を歩いていく。目の前には白亜の建物とミナレットが輝く、ハッジ・アリー廟。ここはインドの観光名所としても知られ、敬虔なイスラム教徒が絶えず訪れる霊廟だ。
ハッジ・アリーは、現在のウズベキスタンのブハラ出身の商人だった。裕福でありながらも敬虔なイスラム教徒で、メッカ巡礼を果たした後、このムンバイの地に腰を落ち着けたという。彼は生前、自らの死後についてある遺言を残していた。棺を陸に埋葬するのではなく、海へと流し、その棺がたどり着いた地に墓を建ててほしい——。
その願い通り、彼の遺体は波に漂い、そしてこの小さな島に流れ着いた。人々はそれを神の意志と受け取り、彼の眠る場所に廟を建立したのだ。それから幾世紀を経た今もなお、この地は多くの巡礼者たちの信仰を集め続けている。
廟へと続く一本道は、潮が満ちれば海に沈み、引けば姿を現す。まるで信仰へと誘う試練のようにも思えた。僕は人々の流れに乗り、その細い道を進んだ。
ヒンドゥー教徒が多数のムンバイにもイスラム教徒は多い。しかし、ここに立つと、まるで別の世界に来たような錯覚に陥る。潮風が頬を撫で、ミナレットの上を旋回する鳥たちの影が白壁に映る。ここは観光名所でありながら、聖なる祈りの場でもあった。廟の奥へと進むと、純白の大理石の中にひっそりと横たわるハッジ・アリーの棺が見えた。信者たちがその周囲に集まり、低く唱える祈りの声が静かに響いていた。
2025年3月 町角 インド | |
ミナレット ムンバイ 空 墓 |
No
12831
撮影年月
2024年5月
投稿日
2025年03月09日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF