歩いていると、唐突に灰色の大きなゲートが行く手を塞いでいた

路地に現れた大きなゲート
路地に現れた大きなゲート

ムンバイを歩いていると、唐突に灰色の大きなゲートが行く手を塞いでいた。ゲートにはインドらしく英語、ヒンディー語、そしてデーヴァナーガリー文字まで並び立ててあり、その中央には「NO PARKING」と赤い字で描かれている。さらに読み進めると、「Trespassers Will Be Prosecuted」、つまり「不法侵入者は告訴します」と書かれているのだ。どうやらここは「マーブル・アート」という石材関係の工房らしく、重厚なゲートの装飾性と、無骨に並んだ文字がちぐはぐな調和を見せている。

この「告訴します!」という直截的な文句は、インド的な大らかさの中にあって、かえって滑稽に見えてくる。ムンバイの路地裏は、そもそも無秩序の王国のようなもので、牛も人もバイクも思い思いに通り抜けていくのが常である。そんな環境で「無断で入れば法的手段を取ります」と真顔で主張しているのは、まるで子どもが砂場に立て札を立てるような風情だ。

ゲート脇の椅子には、汗でシャツを赤茶色に染めた男が腰を下ろしていた。彼は通りかかる人々を眺めつつ、まるで番犬のように門を守っている。もっとも、この男が本当に侵入者を取り締まるつもりなのか、それともただ日陰で一服しているだけなのかは判然としない。インドの都市ムンバイでは、働いているのか休んでいるのか見極めがつかない場面にしばしば出くわす。

ゲートの向こうに何があるのか、旅行者としてはつい覗いてみたくなる。しかし、「告訴」という単語が効いて、足を踏み入れる勇気までは湧いてこない。結局、僕は路地の入口で立ち止まり、異国の法治主義と無秩序の同居ぶりに妙な可笑しさを覚えただけだった。

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ENGLISH
2025年8月 町角 インド
バケツ ムンバイ

PHOTO DATA

No

12893

撮影年月

2024年5月

投稿日

2025年08月26日

撮影場所

ムンバイ / インド

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

SONY ALPHA 7R V

レンズ

ZEISS BATIS 2/40 CF

日本国外で撮影した写真

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