台南の中心部を歩いていると、また一軒の工房を見つけた。ここも八仙彩と呼ばれる神棚に飾るのれんを作る工房のようだった。八仙彩とは、道教の仙人の中でも代表的な8人をモチーフにした、めでたい絵柄のことだ。
工房の中では、数人の職人たちが黙々と働いていた。手元をじっと見つめ、無言で作業を進めている。その光景には奇妙な落ち着きがあり、静かな緊張感が漂っていた。八仙彩は日本ではあまり馴染みがないけれど、中華圏では階層を問わず受け入れられている一般的なものだという。台湾の人々は信心深い。町中の寺院を参拝するだけでなく、自宅にも神棚を設け、そこに八仙彩を飾るのだそうだ。
工房の一角では、木製の枠に赤い布が張られていた。布には下絵が描かれ、小さな鋏と大きな鋏が並べられている。カメラを向けると、一人の男が真剣な顔で作業を続けた。腕をまっすぐに伸ばし、引っ張った糸が真っ直ぐに張るのを確かめながら、刺繍を施していく。その動作は一切の無駄がなく、ただ静かに布に命を吹き込んでいるようだった。
八仙彩が持つ鮮やかな赤と、職人たちの無言の集中が交差する空間。その中で、時間がゆっくりと流れているように感じられた。
2017年5月 人びと 台湾 | |
職人 刺繍 ハサミ 紐 工房 台南 |
No
10138
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年05月11日
更新日
2024年12月06日
撮影場所
台南 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA