台北の街を歩いていると、どこからともなく香ばしい匂いが漂ってくる。鼻の向くまま進むと、道端に一台の屋台があった。鉄板ではなく、どうやら小さな窯が備え付けられている。移動式の屋台に窯とは、ずいぶん重装備だ。火加減ひとつで成否が分かれる商売である。中では初老の男が黙々と手を動かしていた。
男は無駄な動きを一切せず、生地を丸めては中に肉餡を詰め、手際よく窯へと放り込んでいく。その姿から察するに、焼いているのは胡椒餅だろう。台湾では定番の軽食で、外はパリッと香ばしく、中には胡椒をきかせた豚肉の餡が詰まっている。日本の肉まんに似ているが、こちらは焼き立ての香ばしさが売りだ。古くは福建省発祥ともいわれ、戦後に台北へ伝わったらしい。
それにしても、通りを眺めても客の姿は見えない。男は商売っ気を見せることもなく、ただ黙々と作り続けている。ひとつ焼いては取り出し、また新しい生地を窯に入れる。その表情は真剣というより、どこか諦観に満ちている。焼き上がった胡椒餅の湯気が風に揺れて消えていくのを見ていると、人生もまた焼きすぎると焦げるのかもしれない、などと余計なことを考えてしまう。
| 2007年3月 町角 台湾 | |
| 食べ物の屋台 窯 台北 |
No
774
撮影年月
2007年1月
投稿日
2007年03月06日
更新日
2025年12月02日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V