マイメンシンを流れるブラマプトラ川の岸辺に、小さな集落があった。川面は広く、濁流というよりも、巨大な泥の板のようにゆっくりと流れている。そのほとりに立つと、遠くの空まで湿気を含んで霞んで見えた。岸辺から少し入ると、舗装されていない道が集落の中を縫うように続いている。いわゆる「道」と呼ぶには少し心もとないが、そこを人もバイクも通るのだ。
一画には、小さな店がいくつも並んでいた。どの店も壁が竹で編まれており、屋根には錆びたトタンか、あるいはヤシの葉を重ねたものが乗っている。店先には香辛料の袋や魚の干物が吊るされ、煙のような匂いが漂っていた。その前を、一人の女性がサリーの裾をひるがえしながら通り過ぎた。裾を押さえる手つきには、何年も続く日常の癖がにじんでいる。サリーの模様は鮮やかな花柄で、埃っぽい風景の中でそれだけがやけに瑞々しく見えた。
ふと、遠くから子どもの笑い声が聞こえた。砂の上に足跡が散らばり、どこかの家から鍋の音が響く。ここマイメンシンも、首都ダッカから電車で数時間の距離にあるが、すっかり時間の流れが違う。川と人と布とが、古い約束のように結びついて暮らしている。旅人としては、その約束の輪の外側から、ただ眺めるしかない。
| 2010年4月 バングラデシュ 町角 | |
| 砂利道 マイメンシン サリー お店 女性 |
No
3897
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年04月01日
更新日
2025年11月13日
撮影場所
マイメンシン / バングラデシュ
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM