バングラデシュの北西部に位置するロンプールの町を歩いていた。あてもなく歩いていると、一人の若い男がスッと目の前に立ちはだかった。首に布を巻いた彼は、サイクルリクシャーと呼ばれる三輪自転車タクシーの車夫だった。どうやら、通りをゆっくりと流しながら手頃な客を探していたらしい。黒いカメラをぶら下げた暇そうなよそ者の僕を見つけると、すかさず近寄ってきて乗らないかと声を掛けてきたのである。要するに、しごく真っ当な営業活動というわけだ。
そのしごく真っ当な営業活動に対して、僕は気の利いた返事をする代わりに、いきなり無言でレンズを向けてやった。そもそも、この「リクシャー」という乗り物の語源は、明治時代の日本で生まれた「人力車」である。それが海を渡ってアジア中に広まり、自転車とくっついて現在の形になったらしい。そんな日本の名残を感じる乗り物の誘いであっても、ひたすら歩きたい気分の僕にとっては、ただの面倒な足止めに過ぎないのである。
そのただの面倒な足止めに過ぎないからと無言でレンズを向けられた男は、ひどく戸惑った顔をしていた。彼からすれば、ただ日銭を稼ぐために声を掛けただけであり、いきなり写真を撮られることになるとは微塵も思っていなかったようだ。ファインダー越しに見る彼の顔は、貴重な客を取り逃がした上に勝手に被写体にされたせいで、ちょっと不満そうに歪んでいる。でもここは写真を撮られるのが好きな人びとが生息しているバングラデシュ。不満げな表情になりながらも、しっかり写真を撮らせてくれた。
| 2010年4月 バングラデシュ 人びと | |
| ロンプール リクシャワラー シャッター 青年 |
No
3984
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年04月21日
更新日
2026年06月08日
撮影場所
ロンプール / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM