バスターミナルの近くに沢山のオートリクシャーが駐められていた

並んだオートリクシャー
並んだオートリクシャー

僕が立っていたのはインド西部、プネーのバスターミナル前だった。暑くもなく寒くもない昼下がり、空は雲が浮かぶ青で、地上の喧騒とは別の世界のように澄ましている。だが足元の現実は違う。道路の向こう側には、同じ形と色のオートリクシャーが横一列に並び、まるで部隊の点呼を受けている兵士のように整然と待機していた。これが俗にいう客待ちというやつで、彼らの表情は「お客は神様」などと毛ほども思っていない顔つきである。

三輪車とはいえ、あの小柄な車体に見えて、エンジンはそこそこ唸るし、座席は二人掛けながら三人乗せることもある。料金は交渉制で、観光客が気を抜くと相場の二倍は簡単に吹っかけられる。とはいえ、この国で「相場」とは蜃気楼のようなもので、固定価格を探すほうが野暮だ。隣の青い看板の雑貨店には、ペットボトルの水や怪しげなスナックが積まれている。上の階のバルコニーには洗濯物がひらひらと風に踊り、遠くには「THE SAMRAT」と書かれた看板が控えめに主張している。

オートリクシャーの運転手たちは、日陰に腰を落ち着け、煙草をふかす者、新聞を広げる者、無言で空を眺める者と、それぞれ自分なりの時間の潰し方をしていた。彼らは客が来ても慌てない。どうせ誰かが必ず乗ると知っているからだ。僕も乗ろうか迷ったが、値段交渉でこちらが負ける未来しか想像できなかったので、そのまま道路を渡らずに立ち尽くすことにした。空の青さだけが、ここがインドであることを少し忘れさせてくれた。

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ENGLISH
2011年4月 インド 乗り物
オートリクシャー 客待ち ライン プネー

PHOTO DATA

No

5423

撮影年月

2010年10月

投稿日

2011年04月29日

更新日

2025年08月10日

撮影場所

プネー / インド

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

RICOH GR DIGITAL

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