混雑したインドのプネーの通り脇に、一台のオートリクシャーが停まっていた。黄色と黒の車体は、排気ガスと埃をほどよく吸い込み、もはや新品だった記憶など誰も持っていない顔をしている。後部座席にはふたりの乗客が腰を下ろしているが、肝心の運転手の姿が見当たらない。逃げたわけではなさそうだが、戻ってくる気配もない。乗客のふたりは、どうやら待ち惚けを食らっているらしい。
周囲ではオートリクシャーやサイクルリクシャー、乗用車が絶え間なく通り過ぎていく。クラクションは意思疎通というより、存在証明のように鳴り続けている。それでも、座席のふたりは落ち着いたものだ。手前の男は、こともなげに鼻をかみ、もうひとりは街の雑踏を眺めている。日本で同じ状況に置かれたら、腕時計を睨み、舌打ちのひとつも出るところだが、ここではそうした動作は無粋に見える。
オートリクシャーは都市交通の象徴で、プネーでも市民の足として広く使われている。料金メーターが付いていても、必ずしも信用してはいけないというのは、旅行者向けの初歩的な雑学だ。とはいえ、運転手が消えるという注意書きは、どのガイドブックにも載っていない。物事は予定通りに進まない、という前提こそが、この国では常識なのだろう。
| 2015年9月 インド 乗り物 | |
| オートリクシャー 乗客 プネー |
No
9473
撮影年月
2010年9月
投稿日
2015年09月08日
更新日
2025年12月22日
撮影場所
プネー / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM