朝の台北。国父紀念館の入口は、すでに静かな活気に包まれていた。大きな石段を登った先、重厚な列柱に支えられた入口の前で、ふたりの人物がゆったりとした動きで体を伸ばしていた。両手を高く掲げ、頭の上で輪をつくるような動き。太極拳だろうか。それとも、独自のストレッチか何かかもしれない。
国父紀念館の回廊には、エクササイズに励む人々の姿がよく見られる。屋根があり、広さも十分で、雨を避けながら体を動かすにはうってつけの場所なのだろう。年配の人々が静かに腕を回し、足を前に伸ばす姿には、都市の喧騒とは無縁のリズムが流れていた。
一方で、石段に腰を下ろし、本に目を落とす若い男の姿もあった。エクササイズには興味がなさそうだ。彼にとっての朝の儀式は、紙のページをめくることなのかもしれない。ふたつの過ごし方が、同じ空間のなかで静かに交差していた。
この建物は、中華民国の建国者である孫文を記念して建てられたものだ。「国父」とは建国の父という意味。そして「中山」は彼の号に由来する。孫文、国父、中山。呼び方は違っても、ここに眠る理念は一つなのだろう。
その理念の前で、静かに身体を動かす人がいる。読書に没頭する人がいる。記念碑的建造物は、ただの歴史の象徴ではなく、今を生きる人々の営みの中に、違和感なく溶け込んでいた。
2007年5月 人びと 台湾 | |
丸 エクササイズ 読書 台北 |
No
893
撮影年月
2007年1月
投稿日
2007年05月09日
更新日
2025年06月16日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V