台北の市場というのは、朝でも夜でもどこか薄暗い。天井の低さと、並んだ蛍光灯の色がそう感じさせるのかもしれない。僕がその通路を歩いていると、向こうからひとりの老婆がやってきた。派手な柄の服を身にまとい、片手には紙の弁当箱を持っている。箱の表にはなぜか日本語で「お食事」と書かれている。どう見ても台湾製ではなさそうだが、弁当の内容よりその文字の方が妙に食欲をそそるから不思議だ。
老婆はカートを押しながら歩き、箱の中から何かをつまんでいる。おそらく市場で働く人のまかないか、売れ残りを味見しているのだろう。通路の奥では焼き鳥の煙と豆花の甘い香りが入り混じり、空気全体が複雑な料理のように煮詰まっている。そんな中を彼女は無言で歩き、時おり周囲の屋台を横目で眺めていた。どうやら、弁当だけでは満足していないようだ。
| 2007年4月 人びと 台湾 | |
| ヘアバンド 市場 老婆 通路 台北 |
No
864
撮影年月
2007年1月
投稿日
2007年04月24日
更新日
2025年11月21日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V