シリアの首都ダマスカス。その旧市街の中心にあるウマイヤド・モスクの中庭に立つと、まずその広さに驚かされる。磨き上げられた石畳が陽光を反射し、まるで鏡のように眩しい。参拝客もいるにはいるが、最も活発なのは子どもたちだ。彼らは信仰とは無関係に走り回り、歓声を上げ、時折転んでは笑っている。世界最古級のモスクも、彼らの前ではただの広場である。聖と俗の境界は、意外とあっけなく踏み越えられるらしい。
それにしても、この荘厳なモスクがもとはキリスト教の教会だったというのだから、歴史とは不思議なものだ。かつてここは「洗礼者ヨハネ教会」と呼ばれ、さらに遡ればローマ神話の主神ユピテルを祀った神殿があった場所だという。聖地というのはどうも土地そのものに磁場のような力があるらしく、宗教が変わっても信仰が吸い寄せられてくるのだろう。あるいは、新しい支配者が古い信仰を上書きするための儀式かもしれない。どちらにせよ、信仰もまた土地に根ざした政治の一形態である。
やがてこの地はイスラームの勢力下に入り、7世紀にはモスクへと姿を変えた。9世紀には教会時代の塔を模した四角いミナレットが建てられ、それが後に北アフリカのイスラーム建築にまで伝わった。モロッコの街角に立つ角張ったミナレットも、源をたどればここダマスカスの石畳の上にあったわけだ。宗教も建築も、結局はコピーと編集の連続である。
| 2005年10月 建築 シリア | |
| 中庭 ダマスカス モスク 世界遺産 |
No
207
撮影年月
2001年2月
投稿日
2005年10月15日
更新日
2025年12月04日
撮影場所
ダマスカス / シリア
ジャンル
建築写真
カメラ
CANON EOS KISS