路地を歩いていると、マルダの町の埃っぽい空気をかき分けるように、一人の男がこちらへやって来た。タンクトップを着て、頭上には米袋のような大きな荷を抱えている。袋の重みで身体が沈むどころか、逆に力を誇示するかのように声まで上げていた。どうやら、これが日常の仕事であることに違いない。インドの地方都市では、こうした光景は珍しくない。荷車や機械が普及していない場所では、労働者が頭上に荷を載せて運ぶのが最も効率的なのだろう。
考えてみれば、機械化というものは経済力の裏返しである。マルダのような町では、人件費があまりに安いため、荷物を持ち上げるのはフォークリフトではなく、逞しい人間の腕と背骨だ。雇い主にとっては機械よりも労働者の方が安上がりで、壊れたら修理代もいらない。もっとも、当の労働者にとっては代替可能な存在でしかないわけだが、そんな経済学的な冷たさを考えていても、男の大きな口が開いたまま「おい、これでも見ろ」と言わんばかりの様子を見ると、こちらまで笑ってしまいそうになる。
結局のところ、汗だくのタンクトップ姿で重荷を担ぐ男の姿こそが、この土地の日常を最も雄弁に物語っていた。写真に収められたその瞬間、労働者の声は僕の耳ではなく、インドの喧騒の奥に吸い込まれていった。
2013年11月 インド 人びと | |
労働者 マルダ ずだ袋 タンクトップ |
No
8053
撮影年月
2011年6月
投稿日
2013年11月08日
更新日
2025年08月24日
撮影場所
マルダ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM