ブンガマティは、ネパールの首都カトマンズから少し南に下った丘陵地にある小さな町だ。町全体は静かで、人の流れもまばらなのだが、中心に据えられた広場だけは妙に存在感がある。石造りの重厚なヒンドゥー寺院が堂々と鎮座していて、町の規模とは釣り合わないほどの威容を放っている。しかもその寺院は、カトマンズやパタンで見られる少女を生き神として祀る「クマリ信仰」とも縁があるというから、地方都市とはいえ侮れない。お祭りのときには大層な賑わいを見せるらしいが、僕の訪れた日は拍子抜けするほど静かで、広場の石畳には陽射しばかりが落ちていた。僕は何をするでもなく、その広場を当てもなくぶらぶら歩いていた。
そうしていると、幼い男の子がさらに幼い女の子の手を引いて歩いている姿が目に入った。兄妹らしく、兄の方は小さな腕をしっかりと伸ばし、妹を守るように歩いている。妹は指をしゃぶりながらよちよちとついていく。二人とも裸足で、地面の熱さを気にする素振りも見せない。兄は僕の存在に気づいたようで、妙に大人びた目つきでこちらを見た。妹の方はといえば、こちらを不思議そうに見つめながらも、しっかりと兄の手を離さない。クマリ信仰の神聖さとは程遠い、庶民の生活感に満ちた光景だが、かえってそれがブンガマティという町の素顔を示しているのかもしれない。
もっとも、僕がこうして眺めていること自体、余所者の無駄な時間つぶしに過ぎない。ネパールの兄妹の記憶は、彼らの中からは数日で消えてしまうだろうが、僕のカメラに収められた姿はしぶとく残る。観光客というのは、地元の人々にとっては迷惑でもあり、同時に通り雨のような存在なのだろう。
2013年11月 ネパール 人びと | |
男の子 ブンガマティ 指 女の子 姉弟・兄妹 |
No
8054
撮影年月
2009年7月
投稿日
2013年11月09日
更新日
2025年08月24日
撮影場所
ブンガマティ / ネパール
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM