台湾の古都と呼ばれる台南を訪れ、小洒落たレトロスポットとして名高い神農街へと足を踏み入れた。ここはガイドブックを開けば必ず「台南観光の目玉」として大々的に紹介されている場所である。そもそもこの通りの名は、突き当たりにある薬王廟に祀られた「神農大帝」という農業と医学の神様に由来している。かつて清の時代には川とつながる貿易の拠点として大いに栄えた裏路地なのだそうだが、実際に歩いてみると、確かに雰囲気は悪くないものの、期待していたほどの特別感はサラサラなかった。古い木造やレンガ造りの町並みが細い路地の両脇に続いてはいるが、その通りは思ったよりもはるかに短い。端から端まで歩くのに、ものの数分もかからないのである。
そのあっけなく歩き終わってしまう短い通りの途中で、ふと道端に古びた青い荷台付きのバイクが停められているのが目に入った。台湾の地方都市や古い農村では、こういった大掛かりな三輪運搬車が今でも現役で果物や資材の運搬に使われている。農業用の耕運機をベースに改造されたものも多く、地元では生活に密着した泥臭い乗り物だ。そんな無骨な生活の道具の座席に、ひとりの幼い男の子がちょこんと腰掛けていた。彼は観光地化されたお洒落な街並みに調和するような小綺麗な格好ではなく、白いパジャマのような私服を身にまとっている。そこには、観光客向けの演出ではない、地元の剥き出しの日常そのものが転がっていた。
その地元の日常を体現してバイクの座席に収まっている男の子だが、まだあまりに幼いためか、目の前にある黒いハンドルにどうしても手が届かないようであった。仕方がないので、彼は両手を座席の前のクッションの上に置いてお茶を濁している。頭を丸刈りにした彼は、気分だけは一人前の運転手になったつもりでいるのかもしれない。しかし、いくら踏ん張ってもハンドルに手がかけられないせいか、その表情はどこか腑に落ちない様子で、ひどく物足りなさそうであった。
| 2017年2月 人びと 台湾 | |
| 男の子 バイク 座席 ハンドル 台南 |
No
10052
撮影年月
2016年9月
投稿日
2017年02月25日
更新日
2026年06月13日
撮影場所
台南 / 台湾
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA