街のあちこちをけたたましい音を立てて走り回っているのは、フィリピン名物の乗合タクシー、ジープニーである。この風変わりな乗り物の起源は、第二次世界大戦後に米軍が大量に置いていった軍用ジープを地元の職人たちが改造したのが始まりだ。今では派手な塗装を施され、庶民の足としてすっかり定着している。この類の代物には客席の扉というものが存在しない。そのため、車内の様子が外を通る僕のようなよそ者からも丸見えなのである。
その外から丸見えである座席の様子をファインダー越しに眺めてみると、運転手の他に、女性と男性の二人の乗客が前席にぎゅうぎゅうになって座っていた。どういうわけか、どちらもひどく険しい目つきをして前方を見つめている。楽しいドライブとは程遠い、まるでこれから果し合いにでも向かうかのような悲壮な面持ちだ。そもそもこの乗り物はトラックの荷台を強引に客席に仕立てたような不調法な構造だから、サスペンションなどあって無いようなものである。道路の穴ぼこを通過するたびにガタガタと激しく揺れるのだから、その肉体的な苦痛を想像するだけで、僕の腰まで痛くなってくるようだ。彼らの仏頂面を見る限り、その乗り心地が最悪であることは火を見るより明らかであった。
その乗り心地が最悪であるに違いない鉄の塊のボンネットに目をやると、「ISUZU C240」という文字がデカデカと刻まれているのが見えた。一見すると日本の自動車メーカーが誇る頑丈なトラックのようだが、これが純粋な日本製の車両であるはずがない。実態は寄せ集めのジャンクパーツであり、エンジンだけを信頼性の高い日本のいすゞ製に載せ替えたニコイチの模造品だろう。それでもわざわざロゴを誇らしげに掲げているのは、その名を刻むだけで信頼性が格好よく跳ね上がるからに違いない。異国の地で我が国の技術への絶対的な信仰がまだ生きているのだと思うと、日本人の僕としても少しばかり鼻高々で嬉しい気分になるのだった。
| 2014年4月 人びと フィリピン | |
| ジプニー マニラ 乗客 座席 |
No
8478
撮影年月
2008年9月
投稿日
2014年04月20日
更新日
2026年06月16日
撮影場所
マニラ / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM