足を踏み入れた商店街の一角に、ささやかな八百屋があった。粗末なテーブルの上にはタマネギやウリ、ニンジン、インゲンといった野菜が並び、その向こうには一組の親子が腰を下ろしている。
この日は、お父さんと息子が店番を任されているのだろう。お父さんは携帯電話を耳に当て、誰かと静かに話している。忙しげな様子ではないが、その表情には生活の中の真剣さが滲んでいた。
一方で、息子はまるで異国の訪問者に興味を引かれたかのように、僕のカメラに気がついていた。彼の瞳は好奇心に満ち、まっすぐにこちらを見つめてくる。その眼差しには、まだ幼さが残る純粋な興味と、見知らぬ世界への憧れのようなものが感じられた。
ふと、視線をテーブルの上の野菜に戻す。どこの市場に行っても気になっていたことだが、ここでもやはり葉物野菜の姿は見当たらない。日本では日常的に見かけるキャベツやほうれん草、レタスのような野菜は、少なくともムンバイの市場ではほとんど目にしない。
気候の違いか、食文化の違いか──。そんなことを考えながら、再び目の前の少年に目をやる。彼の目の奥に広がる未知の世界は、もしかしたら、僕がこの土地に抱いている興味と同じものなのかもしれない。
2025年3月 インド 人びと | |
八百屋 ムンバイ 親子 野菜 |
No
12839
撮影年月
2024年5月
投稿日
2025年03月16日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R V
レンズ
ZEISS BATIS 2/40 CF