コルカタの路地は、まるで人間の体温がそのまま染みついているようだった。湿気を含んだ空気が肌にまとわりつき、どこからともなくカレーと排気ガスが混ざった匂いが漂ってくる。そんなインドの都市の中で、裸足の男がひとり、うつむき加減で歩いていた。足の裏は黒ずみ、皮が厚くなっている。舗装とは名ばかりの地面にはガラス片や釘、何かの骨のようなものまで落ちているのに、彼はまるでそれを気にする様子もない。長年の慣れというものは、靴よりも強靭なのかもしれない。
男の手には小さな鞄と、折りたたみの傘がぶら下がっていた。空は晴れているが、コルカタではそれが特別なことではない。いつ降るとも知れぬスコールに備えて、男は傘を持ち歩いていた。突然の雨に濡れるのを厭わない人間など、ここでは詩人ぐらいのものだろう。男がすれ違うたびに、靴を履いた人々が彼の足元を一瞬ちらりと見る。けれども、誰も声をかけない。裸足は、哀れみではなく、この街の常態なのだ。
| 2011年10月 インド 人びと | |
| 路地 コルカタ 裸足 傘 |
No
5768
撮影年月
2011年6月
投稿日
2011年10月02日
更新日
2025年11月13日
撮影場所
コルカタ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM