ネパールの首都カトマンズには、古くから多くのチベット族が暮らしている。彼らの多くは1959年、チベットで起きた反中国・反共産主義の蜂起ののち、ヒマラヤを越えてこの地に逃れてきた人々の子孫だ。1959年といえば、もはや半世紀どころか七十年以上前の出来事である。現在の若者たちの多くは、もはや「亡命」よりも「生まれた場所としてのカトマンズ」を自らの故郷と思っている。
写真の老婆は、その時代を覚えている数少ない人なのかもしれない。静かな表情の奥に、長い年月の記憶が沈殿しているようだった。彼女がもし当時を知っているとしても、記憶はすでに霞がかった山の向こうのようにぼんやりしているに違いない。けれど、彼女の顔の皺を眺めていると、そこには国境を越えた人生の地図が刻まれているようにも見える。
チベット族の難民キャンプは、カトマンズの外縁部に点在している。観光客が目にするのは祈りの旗と仏具の店だが、その裏には亡命民の地道な生活が続いている。今さら国へ帰るあてもなく、かといって完全に馴染んだわけでもない。どちらの国も彼女を自分のものとは思っていないだろう。
| 2009年10月 ネパール 人びと | |
| イヤリング カトマンズ 老婆 難民 チベット人 |
No
3312
撮影年月
2009年6月
投稿日
2009年10月26日
更新日
2025年12月08日
撮影場所
カトマンズ / ネパール
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM