写真の男の子は、いつの間にか僕のところへやって来て、真正面に立ち止まった。逃げるでもなく、愛想を振りまくでもなく、ただそこに立っている。ネパールの町を歩いていると、こういう距離感に時折出会う。地元のネパール族の人々と比べると、この男の子の顔立ちはどこか東アジア的で、輪郭や目元が日本人とさほど変わらないようにも見えた。おそらくはチベット族なのだろうと、僕は勝手に見当をつけた。
カトマンズには、中国側からヒマラヤを越えて逃れてきたチベット難民とその子孫が多く暮らしている。1950年代以降の歴史を思えば、ここでチベット族の人々を見かけること自体は、もはや特別な出来事ではない。街の一角にはチベット仏教の寺院があり、バター茶の匂いが漂う食堂もある。観光ガイドにはあまり載らないが、そうした生活の層が、この町の厚みを作っている。ひょっとすると、この男の子の親や祖父母も、かつては山の向こうからここへ流れ着いたのかもしれない。もっとも、本人に聞いたわけではないから、すべては想像にすぎない。
そもそも、男の子が本当にチベット族かどうかなど、正確には分からない。ただ一つ確かなのは、彼の好奇心がこちらにまっすぐ向けられているということだった。男の子は一言も発さず、ただ僕の一眼レフカメラをじっと見てくる。レンズの奥に何があるのかを確かめるような視線で、瞬きすら惜しんでいるようにも見える。こちらが気恥ずかしくなるほどだ。
| 2013年10月 ネパール 人びと | |
| 男の子 注視 視線 カトマンズ Tシャツ チベット人 |
No
7991
撮影年月
2009年7月
投稿日
2013年10月19日
更新日
2025年12月13日
撮影場所
カトマンズ / ネパール
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM