公園には年配の男たちが大勢集まっていた。散歩の途中で腰を下ろしたというより、最初からここに来るつもりで集まってきたような顔つきである。どうやら彼らは、朝鮮将棋であるチャンギを指すために、この公園に陣取っているらしい。写真のハンチングをかぶった男もそのひとりで、地面に直接腰を下ろし、簡素な盤を前にして静かに考え込んでいた。ソウルという大都会の真ん中で、こうした光景は意外なほど自然に溶け込んでいる。
チャンギの盤を覗き込んでみると、日本の将棋盤とはずいぶん様子が違う。まず目につくのは、盤上に引かれた斜めの線だ。日本の将棋には見られない線で、これを見ると駒が斜めにも動くのではないかと、素人はつい余計な想像をしてしまう。実際には駒の動きはかなり理詰めで、勢いで動かすとすぐに痛い目を見るらしい。もっとも、僕には盤を見ただけで、チャンギとシャンチー、中国将棋の違いを正確に言い当てる自信はない。実のところ、似た者同士なのではないかという疑念も拭えない。
調べてみると、日本の将棋も中国将棋も朝鮮将棋も、その源流はインドの古いゲーム、チャトランガに行き着くのだという。そう聞くと、急にこの盤の上が国際会議の会場のように思えてくるが、当の男たちはそんな由来には一切興味がなさそうだ。ハンチングの男はしばらく顎に手を当て、十分に時間を使った末、静かに次の一手を打った。その一手が妙手なのか悪手なのか、僕には皆目見当がつかない。ただ、盤を囲む沈黙の濃さだけは、都会の喧騒よりもはるかに重かった。
| 2013年10月 人びと 韓国 | |
| 帽子 チェス ゲーム 老人 ソウル 中国将棋 |
No
7986
撮影年月
2008年6月
投稿日
2013年10月17日
更新日
2025年12月13日
撮影場所
ソウル / 韓国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM