プネーの町を歩いていると、車やバイクの喧噪の向こうから、のっそりと牛車が姿を現した。道路というより舞台の中央に進み出た役者のようで、僕の視線は否応なくそちらへ吸い寄せられる。荷台を引いているのは立派な角を持つ水牛だった。せっかくなので正面に回り込み、カメラを構えてみたが、水牛はまるでその程度では動じない。むしろ「勝手に撮るがよい」とでも言いたげに、黒目がちな瞳でじっとこちらを見返してくる。撮影者と被写体というより、問われているのはこちらの覚悟の方である。
ヒンドゥー教の世界では牛は神聖視され、勝手に働かせれば大変な騒ぎになると聞く。しかし、その傍らで水牛はせっせと農耕や運搬に駆り出される。インドにおける社会的役割の差は、どうやら角の形だけで決まるわけではないらしい。とはいえ、僕には両者の違いが細かく見分けられず、正直なところ「どちらも立派」としか言いようがない。生まれついた種族によって扱いが大きく変わってしまうのは、人間社会と似たようなところがあって妙に胸に残る。
| 2015年9月 動物 インド | |
| 水牛 顔 プネー |
No
9476
撮影年月
2010年9月
投稿日
2015年09月10日
更新日
2025年12月11日
撮影場所
プネー / インド
ジャンル
動物写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM