浅草六区を歩いていると、歩道に人びとの列ができていた。近づいてみると、それは天ぷら屋に並ぶ客たちの行列だった。この辺りには数え切れないほどの飲食店が軒を連ねているが、この時間帯に行列ができる店は珍しい。それだけ、この天ぷら屋が特別であることを示しているのだろう。きっと、ここでしか味わえない何かがあるに違いない。だが、その「特別」とは一体何なのか――僕には知る術がない。ただ、この行列そのものが一種の儀式のようにも思えてきた。
天ぷら屋の前で立ち止まっていると、突然、一台の人力車が目の前に滑り込んできた。車夫は道端に人力車を停めると、乗客に向かって観光ガイドを始めた。その動きは流れるようで、左手をすっと伸ばして何かを指し示す仕草には、一種の演劇的な優雅さがあった。車夫の衣装は時代がかったもので、現代の雑踏の中では際立っていた。まるで過去から抜け出してきたタイムトラベラーのようだ。その姿は、周囲の喧騒から浮き上がり、まるで異世界の住人のように見えた。
この瞬間、僕の中で浅草という場所が奇妙に分裂した。ひとつは現代の日常に埋もれた浅草、もうひとつは歴史や記憶の断片が混ざり合った浅草だ。目の前の人力車は、その境界を曖昧にする存在だったのかもしれない。
2017年6月 人びと 東京 | |
浅草 行列 リクシャー リクシャワラー |
No
10190
撮影年月
2016年11月
投稿日
2017年06月25日
更新日
2024年11月25日
撮影場所
浅草 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
SONNAR T* FE 55MM F1.8 ZA