ミャンマーの最大都市であるヤンゴンの港から、対岸のダラ地区へと向かう大型のフェリーに乗り込んだ。この船が往来するのはヤンゴン川の濁った水の上だ。しかし、地理的な元を辿れば、これはミャンマーを南北に縦断する大河エーヤワディー川が河口付近でいくつもの広大なデルタ地帯に分かれた、その支流の一本に過ぎない。エーヤワディーとは古代のサンスクリット語で「象の川」を意味するらしい。その高尚な名に違わず、水流は川底の泥を大量に巻き込んで茶褐色に濁っている。乗船時間はたかだか十分かそこらのごく短い船旅だ。しかし、船内には大勢の通勤客の財布を目当てにして、驚くほどたくさんの売り子たちがひしめき合っていた。彼らは果物やスナック、冷たい飲み物を入れた重そうなカゴを器用に頭の上に乗せ、狭いデッキを忙しく行き来している。その中には大人の女性だけでなく、まだ幼い女の子や男の子の姿も珍しくなかった。
そのまだ幼い売り子の一人である男の子が、僕が首から四角いカメラを下げているのを目ざとく見つけた。彼は先ほどまでの商売熱心な顔をどこかへ放り出し、一目散に僕のところへと駆け寄ってきた。ミャンマーの子どもたちは概して写真に撮られるのが大好きである。レンズを向けると、まるで珍しい見世物でも見つけたかのように大はしゃぎする手合いが多い。目の前に迫った彼は、レンズの直前で右手を力強く突き出し、意気揚々とピースサインを決めてくれた。茶目っ気のある目がキラキラと輝いていた。
その茶目っ気のある目でポーズを決める男の子のすぐ後ろで、さっきまで一緒に物を売っていた女の子が、ぽつんと立ち尽くしていた。彼女の頬にはタナカの白い模様が綺麗に描かれている。彼女は男の子が僕のカメラを独占して得意げになっている様子をじっと凝視していた。そして、なぜだかちょっと悔しそうな、恨めしげな表情をこちらに投げかけていた。
| 2010年10月 ミャンマー 人びと | |
| 男の子 フェリー 行商人 ピースサイン ヤンゴン |
No
4658
撮影年月
2010年3月
投稿日
2010年10月03日
更新日
2026年07月09日
撮影場所
ヤンゴン / ミャンマー
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
RICOH GR DIGITAL