上海の路地に、いつの間にかテーブルが据えられていて、四人の男たちがそれを囲んでいた。麻雀である。写真の野球帽をかぶった男もその一人で、腕を組むでもなく、背中を丸め、手牌をじっと睨みつけている。配牌の中からどれを捨てるべきか、人生相談でもしているかのような顔つきだ。もっとも、彼の人生の大半は、この一局の成否ほど重くはないのだろう。
中国の、特に上海の住宅街を歩いていると、こうした光景を実によく見かける。麻雀はここでは立派な社交であり、同時に時間調整装置でもある。約束の時間まで少し余ったら一局、昼寝の代わりに一局、考え事をしたくないときにも一局、という具合だ。卓上には点棒の代わりなのか、小さなコインが無造作に転がっている。賭け事というより、緊張感の調味料のようなものだろう。
麻雀牌の起源を辿れば、骨牌や紙牌に行き着き、清代の遊戯文化にまで話が遡るらしい。つまり、この路上の卓は歴史の末端でもある。そう思うと少し大げさだが、当人たちはそんなことを気にする様子もない。捨て牌の音が乾いた響きを立て、次の男の手が自然に伸びる。それだけで場は進行する。
高層ビルが林立し、金融都市としての顔を誇る上海だが、路地に腰を据えて麻雀に興じる男たちを眺めていると、その発展ぶりが本当なのか疑わしくなってくる。もっとも、都市がどれほど成長しようと、人間が牌を混ぜ、捨て、また混ぜる癖をやめるわけではない。男は一枚捨て、次の順番を待つ。その様子は、経済成長よりもよほど確かな、上海の日常だった。
| 2013年10月 中国 人びと | |
| 帽子 麻雀 上海 腕時計 |
No
7947
撮影年月
2008年6月
投稿日
2013年10月04日
更新日
2026年01月04日
撮影場所
上海 / 中国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM