ムアンシンの町外れにある市場は、ラオス北部らしい朝の冷たい霧に包まれながらも活気に満ちていた。ムアンシンは国境に近い小さな町だが、この一帯では比較的大きな集落にあたるため、周囲の村々から多くの人が集まって来る。市場には野菜や果物だけでなく、家禽や山から採ってきた蜂蜜の瓶なども並んでいる。旅行者にとっては異国情緒たっぷりの光景に見えるが、地元の人々にとっては日常の一コマである。
そんな人々の中に、民族衣装を身にまとったモン族の女性が立っていた。頭には特徴的な刺繍の施された帽子をかぶり、肩から大きな布のバッグを斜めに掛けている。近年は既製服を着る人も多い中で、伝統的な民族衣装を市場で身につけている姿は目を引く。刺繍は単なる装飾ではなく、婚姻や家系を示す模様が込められている場合もあるそうだ。観光用の衣装として簡略化されたものもあるが、彼女の着ていた布地は色褪せており、普段使いとしての生活感がにじんでいた。
一方で、別の女性は険しい表情をしながら赤ん坊を抱いて歩いていた。抱っこ紐代わりの布で赤子を支えているのだが、手つきは実に慣れたものだ。市場の人混みをすり抜けるのに精一杯といった様子で、買い物袋や商品には目もくれない。市場の喧騒の中に、こうした母親の姿があるのはどこか普遍的であるが、ムアンシンの空気と相まって一層印象的に映る。
ラオスの山間部に暮らす少数民族は、現金収入を得る場として市場を活用してきた。物々交換が主流だった時代から、こうした場は社交の場でもあったのだろう。僕は二人の女性の姿を見比べながら、民族衣装の艶やかさと生活の厳しさが同居する市場の風景に、妙に場違いな観察者として立ち尽くしていた。
2008年3月 ラオス 人びと | |
赤ちゃん 民族衣装 モン族 市場 お母さん ムアンシン 女性 |
No
1517
撮影年月
2008年1月
投稿日
2008年03月26日
更新日
2025年08月29日
撮影場所
ムアンシン / ラオス
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM