トラックが市場の一角に停まっていた。ここはラオス北部の小さな町ムアンシンの市場で、まだ朝靄の残る時間帯だ。市場の周辺は早くも人でごった返し、籠や袋を抱えた村人たちが行き交っている。そんな喧騒の中で、一台のトラックだけは静かに待機していた。荷台には鉄製の柵が取り付けられており、どうやら近隣の集落とこの町を結ぶ交通手段らしい。市場で仕入れた作物や家財道具が積み込まれ、時には人間そのものが詰め込まれて走り出すのだろう。
そのトラックの屋根の上に、一人の男が腰を下ろしていた。荷物を載せるのを待っているのか、あるいは単なる暇つぶしか。彼は遠くを見つめて動かない。ラオスの田舎においては、このように車体の上に座ることも日常の一部らしい。法律的には微妙だが、規制はそれほど厳格ではなく、むしろトラックは人も荷物も等しく運ぶ「万能輸送機」として扱われている。
荷台の両側にベンチを据え付けた簡易バスのような存在タイでは「ソンテウ」と呼ばれるけれど、ラオスではなんと呼ぶのだろう。ムアンシンの市場で、それは単なる輸送手段というよりも、村人同士の社交場の延長として機能している。屋根の上に座った男が、実際には荷物の番をしているのか、それとも退屈をまぎらわしているだけなのかは分からない。だが、あの姿を見ていると、待つことそのものを仕事にしてしまうのがラオス的な時間の流れなのだろうと思えてくる。
2008年3月 ラオス 人びと | |
市場 ムアンシン 屋根 トラック |
No
1518
撮影年月
2008年1月
投稿日
2008年03月26日
更新日
2025年08月29日
撮影場所
ムアンシン / ラオス
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM