ダッカの道端で、山羊の群れと鉢合わせした。何頭もいて、首に縄を付けられたり自由に動き回ったりしている。横には飼い主と思しき男たちがしゃがみ込み、こちらを見つめている。僕がカメラを構えると、二人は山羊の背に手を添えたまま、わざわざポーズをとってくれた。さすがはバングラデシュの大都会、人口は一説に千万人を超えるが、その喧噪の中に突然ヤギが現れるのだから油断できない。コンクリートと排気ガスにまみれた街路と牧畜の取り合わせは、どうにも場違いに思える。
もっとも、バングラデシュでは山羊は貴重な資産だ。牛ほど大きくなく、鶏ほど小さくもない。肉や乳に加え、皮革製品の原料としても重宝されている。イスラム教徒が多いダッカでは犠牲祭(イード・アル=アドハー)の時期になると、街じゅうに山羊市場が立ち、道路は一種の牧場めいてしまう。そう考えれば、道端に山羊がいても不思議はないのだろう。
それにしても、この大都会の交通事情を思うと、山羊も随分とタフである。クラクションとエンジン音に囲まれながら、平然と路地に立つ姿は、ある種の市民権を得ているように見える。だが次にこの山羊と再会するのが、道端ではなく肉屋の店先である可能性も高い。人と獣が同じ都市空間を共有しているのが、バングラデシュ・ダッカという町の現実なのである。
2014年3月 バングラデシュ 人びと | |
ダッカ 山羊 男性 |
No
8417
撮影年月
2009年9月
投稿日
2014年03月20日
更新日
2025年08月26日
撮影場所
ダッカ / バングラデシュ
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM