ボントックの町の中心部を歩いていると、道路の真ん中に婦人警官が立っていた。白い手袋をはめ、鋭い視線を飛ばしながら、時折ホイッスルを吹いては腕を大きく振って交通整理をしている。背後には「POLICE ASSISTANCE CENTER」と書かれた小屋があり、日本で言えば交番のような存在だろう。もっとも、ここフィリピンの山岳地帯にある小さな町においては、交番といってもプレハブ小屋に毛が生えた程度で、頼りがいがあるのかどうかは正直心許ない。
ボントックの町は大都会のマニラとは違い、信号機などほとんど設置されていない。むしろ交通整理の役割は、この婦人警官たちの腕力と笛の音にゆだねられているようだ。もっとも、車の数そのものがさほど多くはないので、彼女が指揮しているのはトラック数台とトライシクルがほとんどである。それでも制服を着て道路に立てば立派に権威を帯びるから不思議なものだ。人間は記号に弱いというが、制服はその最たるものかもしれない。
彼女の姿を眺めながら、僕は少々考えた。このように交通整理をしていても、きっと退屈な時間の方が長いだろう。通り過ぎる車も人も少なく、仕事と呼べるほどの混雑もない。下手をすると、信号機を導入してしまえば彼女の役割は不要になるのかもしれない。だが、信号機を設置するほどの交通量もなく、結果として婦人警官の存在は町の風景を飾るアクセサリーのようになっている。皮肉なことに「役に立たない」からこそ、観光客にとっては写真に収めたくなる光景なのだ。
2014年3月 人びと フィリピン | |
ボントック 警察 往来 女性 |
No
8416
撮影年月
2008年9月
投稿日
2014年03月20日
更新日
2025年08月26日
撮影場所
ボントック / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM