インド東部の町、マルダの雑貨屋の軒先で、一人の男の子が腕を組むようにして台に寄りかかっていた。着ているのはチェック柄の襟がついたポロシャツで、袖口もきちんと整っている。路地で泥だらけになって遊ぶ子供たちとは一線を画す清潔さだ。どうやら、そこそこの家の出かもしれない。とはいえ、ここはマルダである。良い家柄の基準は東京のそれとは別物だし、「小奇麗」というのも砂埃込みでの評価になる。
カメラを向けると、彼は軽く肘を曲げ、両手を台の上に置き、わずかに口角を上げた。その表情は営業スマイルとも、単なる暇つぶしとも取れる曖昧さを含んでいる。横に吊るされた新聞紙の切れ端は、ビスケットや揚げ菓子を包むためのものらしい。日本でも昔は八百屋が新聞紙でミカンを包んでくれたが、いまや都会でそんな包み方をされたら、逆に高級感を演出した包装だと勘違いする人もいそうだ。
マルダの雑貨屋は、商品の配置も価格表示も曖昧で、何か買おうとすれば店主の気分とこちらの顔色が値段に反映される。男の子はそんな店先の空気を吸い込みながら、客と世間話をし、売れた菓子を新聞紙で包む。年齢の割には板についているが、本人はこれを遊びの延長と思っている節がある。僕は男の子が妙に真面目な表情で包もうとするその手つきを見て、なんとなく買うのをやめた。買ったお菓子に見合わぬ厳粛さを、こちらも背負わされそうだったからだ。
2013年11月 インド 人びと | |
男の子 襟 マルダ ポロシャツ |
No
8110
撮影年月
2011年6月
投稿日
2013年11月27日
更新日
2025年08月10日
撮影場所
マルダ / インド
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM