韓国の市場の一角、薄暗い路地の中程に、中年の女性が立っていた。足元のアスファルトは油で光り、周囲には食べ物の屋台らしき設備がぎっしり詰まっている。とはいえ、僕がこの写真を撮った時は、まだどの店も開いていなかった。肉を焼く煙も香りもなく、ただ鉄の網と煙突の付いた装置が所在なげに並んでいるだけだ。きっと夜になれば、ここは焼肉やホルモンの煙で視界が曇り、客の喧騒で耳が痛くなるほど賑わうのだろう。
店先には大小さまざまな看板がぶら下がっているが、どれもハングルで書かれている。韓国語を解さない僕には、そこが高級牛焼肉店なのか、タコの炒め物専門店なのか見当もつかない。そもそも読めないのだから、肉だと思って頼んだら海産物が出てくる可能性もある。そんな博打を食事でやるのも一興ではあるが、胃袋の準備が整っていないと危険だ。
ふと視線を女性に戻すと、彼女は立ち止まったまま周囲をきょろきょろと見回している。表情には焦りはなく、むしろ観察を楽しんでいるようにも見えた。もしかすると、僕と同じで方向感覚を失っているのかもしれない。もっとも、この迷宮のような路地では、迷うこと自体が観光の一部なのだろう。出口が分からなくても、人波に流されて歩いていれば、そのうち焼肉の煙が道案内をしてくれるはずだ。
2013年11月 町角 韓国 | |
路地 ソウル 看板 露天商 |
No
8111
撮影年月
2008年7月
投稿日
2013年11月28日
更新日
2025年08月10日
撮影場所
ソウル / 韓国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF24MM F1.4L USM