沖縄の最果てに浮かぶ波照間島へやってきて、評判のニシ浜にたどり着いた。ここの海は驚くほど水が澄んでいる。それなのに、不思議なことに誰一人として海に入っている人間がいない。砂浜の白さと海の青さは完璧だが、あまりに静まり返っていて生気がないのだ。まるで美術館の頑丈なガラスケースの向こうに展示されている、高価な芸術作品を遠巻きに眺めているかのような奇妙な気分になる。そもそも、南国の海水の透明度が高いのは、周囲に川がなくて土砂が流れ込まないことや、微生物の餌となる栄養塩が少なくてプランクトンが繁殖しにくいからだという。つまりは生物にとっては砂漠のように飢えた海なのだが、人間はそれを勝手に「美しい」とありがたがっているのだから、現金なものである。
その人間が勝手にありがたがっている飢えた海を前にして、僕もご多分に漏れず、足を水に浸けることすらしていなかった。多くの人々がこの完璧なビーチを体で汚すのがもったいないと考えて、遠巻きに鑑賞しているのかもしれない。いや、実際のところは、単に水着に着替えるのが面倒なだけだろう。僕もまた、海に入る気など毛頭なく、ただ重い一眼レフカメラを片手に持って白い砂浜を無目的にウロウロとしていた。
その白い砂浜を無目的にウロウロとしていた僕の視界に、ひとりの女性の姿が飛び込んできた。彼女も僕と同じように、鑑賞派のへそ曲がりなのだろうか。誰を待つでもなく、ひとりで静かに浜辺を散策している。彼女は楽しそうに海を見るわけでもなく、なぜかひどく俯きながら、一歩一歩を確かめるようにトボトボと歩いていた。砂に足を取られて歩きにくいのか、それとも何か失くし物でも探しているのか。上空を見上げると、プカプカと浮かんだ白い綿雲たちが、そんな彼女の奇妙な足取りを退屈そうに見下ろしていた。
| 2007年9月 沖縄 人びと | |
| ビーチ 雲 波照間島 海 散歩 女性 |
No
1074
撮影年月
2007年7月
投稿日
2007年09月10日
更新日
2026年06月11日
撮影場所
波照間島 / 沖縄
ジャンル
風景写真
カメラ
CANON EOS 1V