エーヤワディー川を渡るフェリーは、ヤンゴンの市街と対岸を結ぶ短距離航路である。船内は冷房など望むべくもなく、天井は低く、鉄骨の梁が白く塗られている。そこにぎっしりと詰め込まれたプラスチック椅子は、色も形もまちまちで、すでに幾度となく尻に踏まれたせいか、表面は妙に艶やかだった。乗客たちは思い思いに腰を下ろし、新聞を広げたり、袋からゆで卵を取り出したりしている。
その間を、行商人たちがまるで川の流れに逆らう小舟のように行き交う。時間は航程わずか数十分だが、彼らの動きは驚くほど機敏で、無駄な一歩すらない。中には子どもを伴う者もおり、小さな手に握られた菓子袋が、客の視線を引くようにゆらゆらと揺れる。写真の女性もそのひとりで、頭上には大きなお盆を載せ、その上には切り分けられたスイカが山と積まれている。
ミャンマーでは、スイカは乾季の終わりから雨季の初めにかけて特に甘みが増し、冷やして食べると格別だという。もっとも、このフェリーに冷蔵庫などあるはずもなく、果汁が滴ればそれはそれで天然の涼味になるらしい。女性の頬には、ミャンマー特有の化粧「タナカ」が薄く塗られ、陽射しを避けつつ商売繁盛の縁起物でもあると聞く。私は財布を探しながら、この短い川の往復が、彼女にとっては一日の生活の大半を占める労働時間なのだろうと考えたが、うかつに感傷に浸るほど暇ではなかった。フェリーはもうすぐ岸に着く。次の便の客に備えて、行商人たちの流れはさらに速くなるのだ。
2010年9月 ミャンマー 人びと | |
果物 行商人 頭上 タナカ お盆 西瓜 ヤンゴン |
No
4644
撮影年月
2010年3月
投稿日
2010年09月30日
更新日
2025年08月14日
撮影場所
ヤンゴン / ミャンマー
ジャンル
スナップ写真
カメラ
RICOH GR DIGITAL