東京・新宿駅の改札横には、今もなおずらりと券売機が並んでいる。だが、その前に立つ人の数は昔ほど多くない。スイカやパスモなどのICカードが普及してからというもの、改札を通るのに切符を買う必要がほとんどなくなった。昔は通勤前のサラリーマンが小銭を握りしめて順番待ちをしていたのに、今や人びとは機械に触れもせず、無言のままタッチで通り抜けていく。便利にはなったが、何かを置いてきた気もする。
この券売機たちは、かつての繁忙を忘れられぬまま、壁際に立ち尽くしているように見える。まるで博物館の展示物のように整列しながら、いつか自分の役目が終わる日を静かに待っているのだろう。画面には緑色の光が点滅しており、遠くから見るとまだ元気そうに見えるが、近寄ってみると小傷が多い。長年の勤続疲労というやつだ。
それでも、新宿駅にはまだICカードを持たない旅人や年配の乗客も多い。時折、そうした人たちが立ち止まり、財布を探りながらボタンを押す姿がある。その瞬間だけ、昔の光景がよみがえる。人が券を買い、改札を抜けて旅へ向かう――それは鉄道文化の原点のようなものだ。とはいえ、僕も最近はすっかりタッチ派で、券売機の使い方を思い出せと言われても少々心もとない。いずれ、乗車券の買い方も、黒電話のかけ方のように“懐かしい知識”になる日が来るのだろう。
| 2016年5月 人びと 東京 | |
| 自動販売機 歩行者 新宿 駅 |
No
9735
撮影年月
2016年2月
投稿日
2016年05月06日
更新日
2025年10月30日
撮影場所
新宿 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
SIGMA DP2 MERRILL