バングラデシュの地方都市ボグラを歩いていると、道端の屋台にひとりの男が座っていた。立派なヒゲを蓄え、頭にはタキーヤと呼ばれるイスラム帽を被っている。その姿は、この国に多く暮らすイスラム教徒の典型的な装いを示していた。机に片肘をつき、やや身を乗り出すようにしてこちらをじっと見ている。怪訝な視線というよりは、退屈しのぎに現れた異邦人を眺めているといった風情である。机の上には書類らしき紙の束が積まれていたが、どう見ても商売をしている気配はない。紙が本当に商売道具なのか、あるいはただの読みかけの新聞なのか、判然としないのもまたボグラらしい。
そもそもタキーヤは単なる装飾品ではなく、宗教的な意味を持つ頭巾である。礼拝の際に清浄を保つために被るとされ、バングラデシュをはじめとする南アジアや中東では広く見られる。ヒゲもまた同様で、敬虔な信仰心の証として蓄えられることが多い。つまり、この男の姿は単に「ヒゲの濃い男性」というだけでなく、彼の信仰と生活の様式をそのまま表しているのだ。もっとも、そんな解説を口にしたところで、彼が暇そうに指を頬に当てながらこちらを眺めている事実は変わらない。
2010年4月 バングラデシュ 人びと | |
髭 ボグラ 男性 タキーヤ |
No
3939
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年04月11日
更新日
2025年09月11日
撮影場所
ボグラ / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM