ボグラの町を歩いていると、道端で大きな鍋から立ちのぼる湯気に出会った。男はルンギを締め、腕に力を込めながらその鍋を抱えている。鍋の中ではチャ用のお湯がぐらぐらと沸騰していて、もう少しで溢れそうにさえ見える。バングラデシュではチャイとは呼ばず、単にチャと呼ぶのが一般的だ。語感が簡潔で、こちらの気候や人々の気質に妙に合っているように思う。灼熱の陽気の中、熱湯を扱うのは拷問に近い作業だと感じるが、男は眉ひとつ動かさず平然としている。こちらが勝手に暑さに同情するのは余計なお世話というものだろう。
そもそもチャはバングラデシュの日常生活に欠かせない存在である。紅茶の葉は19世紀にイギリス人がこの地に持ち込んだが、今や庶民の憩いの象徴となっている。日本の茶道のような格式はないが、その分だけ誰にでも開かれている飲み物だ。茶葉を煮出した濃い液体に牛乳と砂糖を加え、時にカルダモンやジンジャーなどのスパイスが入り、実に逞しい味になる。店先で「一杯いくら」と声をかけられると、断る理由を見つける方が難しい。ボグラの街角で立ち働くこの若者も、単にお湯を沸かしているのではなく、街の生活を支える重要な役割を担っているのだ。
2010年4月 バングラデシュ 人びと | |
ボグラ チャイ ルンギ 男性 深鍋 湯気 |
No
3941
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年04月11日
更新日
2025年09月11日
撮影場所
ボグラ / バングラデシュ
ジャンル
スナップ写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM