コルカタの町を歩いていると、半開きのまま放置された扉があった。扉の隙間から覗くと、細長い通路が奥へと延びていて、まるで生活感を滲ませた路地の入口のようだった。インドの都市は表通りの喧噪と裏路地の静けさが紙一重で隣り合っていて、観光客にはつい「中に入ってみたい」という衝動を抱かせる。しかし、そこはおそらく誰かの生活の場で、私が立ち入る筋合いはない。
視線を奥に向けると、プラスチックの椅子が一脚置かれており、その上にひとりの男が座っていた。背を丸め、頭を垂れた姿は、どう見ても沈鬱な雰囲気を漂わせている。コルカタの湿った空気に同化しているようにも見えた。彼は何か深刻な悩みを抱えているのかもしれないし、あるいは単に昼下がりの倦怠に沈んでいるだけかもしれない。インドでは哲学も憂鬱も、紅茶の茶葉のように濃淡の違いはあれど生活に溶け込んでいる。
頭上には古びたエアコンの室外機が取り付けられていて、壁には色褪せたポスターが幾重にも重ね貼りされている。電線は好き勝手に枝を伸ばし、路地そのものが都市の縮図のようだ。私が通りすがりに見たのは、彼の人生の断片にすぎない。沈鬱そうに俯いていたその男も、翌日には別の椅子に腰掛け、茶でも飲みながら笑っているかもしれない。あるいは、また同じ姿で座り続けているのかもしれない。どちらであっても、私に関係があるわけではなく、ただ「インド・コルカタ」という町の断面がそこにあっただけだ。
2012年1月 町角 インド | |
路地 扉 沈鬱 コルカタ |
No
6079
撮影年月
2011年6月
投稿日
2012年01月16日
更新日
2025年09月04日
撮影場所
コルカタ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM