ピイの雑然とした市場の通りを徘徊していた。この町はかつて古代都市として栄えた歴史があるが、僕の目的は歴史探訪ではなく単なる散策だ。汗をかきかき歩いていると、通り沿いの古びた露店で、一人のふくよかな女性が忙しそうに働いているのが見えた。地元の人たちの例に漏れず、彼女のふっくらとした両頬には、白い泥のようなものが熱心に塗りたくられている。現地の日常には欠かせない、伝統化粧品であるタナカだ。
その日常に欠かせない伝統化粧品であるタナカだが、これは単なるおしゃれの道具ではない。ミカン科の木の樹皮を「マッピィン」と呼ばれる平らな石のすり台で、水と一緒に根気よくすり潰して作るものだ。日焼け止めや肌の冷却効果があり、さらにはニキビを防ぐ万能の天然スキンケアとして重宝されている。鏡も見ずに適当に塗るのか、彼女の頬には刷毛でザッと引いたような豪快な白い筋が残っている。僕はその奇妙な白い模様が気になり、首から下げた四角いカメラを構えて、彼女が働く露店へと近づいていった。
そのカメラを構えて不用意に近づいていく僕の姿を見て、彼女は最初、あからさまに嫌そうな顔をした。見ず知らずの異国の男にいきなりレンズを向けられて、諸手を挙げて歓迎する人間などそうそういるわけがない。写真を撮られることには全く乗り気ではない様子で、最初は顔を背けようとしていた。しかし、僕がしつこくレンズを向けたまま、間抜けな顔でその場に佇んでいると、彼女は根負けしたのだろう。次の瞬間、照れ隠しのように顔をくしゃくしゃにして、思わず声を立てて笑った。実に見事な大笑いっぷりだった。目尻には細かな皺が寄り、口を大きく開けて白い歯を見せている。
| 2010年9月 ミャンマー 人びと | |
| 大笑い ピイ 笑顔 タナカ 白い歯 女性 |
No
4610
撮影年月
2010年3月
投稿日
2010年09月21日
更新日
2026年07月17日
撮影場所
ピイ / ミャンマー
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM