熱気から逃れるように、ピイの道端で見つけた小さな喫茶店、すなわち現地風のカフェへと逃げ込んだ。ミャンマーの国民的な飲み物といえば、何と言ってもお茶である。町の至るところにお茶を提供する露店が店を開いている。彼らが日常的に飲むのは「ラペイエ」と呼ばれる、濃厚な練乳をこれでもかと底に沈めた非常に甘い紅茶だ。かつて英国の植民地時代にもたらされた紅茶文化が、現地の強烈な甘党文化に合わせて魔改造された結果である。それほどお茶が優勢な街なのだが、近年はコーヒーもそれなりに一般大衆の間で飲まれているらしい。
その近年はそれなりに飲まれているというコーヒーだが、洒落た豆を挽くわけではなく、主に親しまれているのはネスカフェのインスタントだ。あの赤いロゴの粉末を熱湯で溶かしたものに、やはり砂糖とミルクを加えた代物である。そんな甘味処のような店内の木製ベンチに、ひとりの男の子が所在なさげに腰を下ろしていた。僕は彼がラペエかインスタントコーヒーのどちらかをすすっているのかと思い、何気なく彼の手元に目をやった。しかし意外なことに、彼の前にはカップもグラスも一切置かれていなかった。彼は何も飲み物を口にせず、ただ手持ち無沙汰に椅子に腰掛けていたのである。
その何も飲み物を口にせず椅子に腰掛けている男の子と、不意に視線がぶつかった。彼はカメラを抱えた妙な身なりの僕を、警戒するでもなく、かといって歓迎するでもなく、ただ完全な無表情のままじっと見つめてきた。襟付きのシャツを着た彼は、テーブルの上で両手を所在なさげに組んでいる。彼の頭上には「Class of Prestige」という、泥臭い街角には些か場違いに高尚な英語のポスターが貼られていた。
| 2010年9月 ミャンマー 人びと | |
| うつろな顔 男の子 カフェ 珈琲 ピイ |
No
4611
撮影年月
2010年3月
投稿日
2010年09月22日
更新日
2026年07月17日
撮影場所
ピイ / ミャンマー
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM