ネパールの首都カトマンズから少し離れたバクタプルを歩いていた。ここは街全体が世界遺産に登録されている立派な旧市街である。建物を構成する赤レンガは地元の特産品であり、隙間なく綺麗に積まれることで知られている。そんな整然としたレンガ造りの壁の前に、花柄の服を着たひとりの女の子が立っていた。よそ者が珍しいのか、彼女は通りすがりの僕をじっと見つめている。
その通りすがりの僕をじっと見つめている彼女に向けて、軽く挨拶のつもりで黒いカメラを構えてみた。すると、レンズ越しに交差した彼女の視線は、ふいに鋭さを増したのである。よく見ると、体の脇に下ろされた小さな左手は、ぎゅっと固い握りこぶしを作っていた。どうやら僕は、無意識のうちに彼女の大切な時間を邪魔してしまったらしい。しかし、僕からしてみれば、ただ道を歩いていて偶然目が合ったから写真を撮ろうとしただけである。何か悪いことをしたような気は全くないのだ。
その何か悪いことをしたような気は全くない僕と、握りこぶしを作った彼女との間には、明らかに冷たい隙間風が吹いていた。言葉が通じない異国では、ちょっとしたコミュニケーションのすれ違いは日常茶飯事だ。昔の人間は写真を撮られると魂を抜かれると信じていたらしいが、現代の彼女がそんな古臭い迷信を信じているわけでもないだろう。ただ単に、見知らぬ人間に急にレンズを向けられて不快に思い、警戒しただけなのだ。
| 2010年1月 ネパール 人びと | |
| バクタプル 花柄 女の子 鋭い視線 |
No
3627
撮影年月
2009年6月
投稿日
2010年01月27日
更新日
2026年05月30日
撮影場所
バクタプル / ネパール
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM