ビガンの住宅街を歩いていると、路地に腰を下ろした男性が目に入った。男はタンクトップ姿で、石畳の通りを行き交う人々をただ無表情に眺めている。いや、無表情に見えたのはその独特な垂れ目のせいかもしれない。暑さがまとわりつく午後の空気の中、彼の姿は「何もしない」という選択を全力で実践しているように見えた。東南アジアでは、怠惰とされる行為も実は最高の知恵であることがある。暑気払いには氷や扇風機よりも、何もしない勇気のほうが効くのかもしれない。
近づいてカメラを向けると、垂れ目の男は顔色一つ変えず、しかしその奥に妙な満足感を漂わせていた。もしかすると僕の存在すら見えていないのかと思ったが、こちらを真っすぐ射抜くような気配もあり、実際にはしっかりと見ていたのだろう。フィリピンでは人びとが自宅前や通りの一角に椅子を置き、涼みながら近所の動きを観察する習慣があるという。男の姿もまさにそれで、道端の椅子はもはや個人専用の展望台だった。
2008年12月 人びと フィリピン | |
垂れ目 男性 無精髭 タンクトップ ビガン |
No
2298
撮影年月
2008年9月
投稿日
2008年12月11日
更新日
2025年09月21日
撮影場所
ビガン / フィリピン
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM