男の子の前にはきれいな水の入ったバケツが置いてあった

道端で飲水を売る男の子
ミャンマーのヤンゴンで撮影

クラクションが鳴り響くヤンゴンの喧騒の中、歩道を歩いていた。この都市の水道事情はなかなか一筋縄ではいかない。かつてイギリス植民地時代に整備された水道管はとうに老朽化している。そのため、蛇口から出る水は鉄錆や泥で茶褐色に濁っていることが多いのだ。現地の人々であっても、水道水をそのまま口にするような命知らずは滅多にいない。そんな水に不自由する通りを歩いていると、歩道の片隅に大きなプラスチックの黒いバケツを置き、その傍らにポツンと佇んでいる一人の男の子と出くわした。彼の頬には、日除けとスキンケアのために「タナカ」が白く塗りつけられている。

著者 : 根本敬
中央公論新社
発売日 : 2014-01-25

そのタナカを頬に塗った男の子が守るバケツの様子を、僕は少し離れた場所から覗き込んでみた。中にはなみなみと澄んだきれいな水が湛えられている。どうやら彼は、この路上で通行人に向けて飲み水を売る、いわゆる水売りの商売をしているらしかった。東南アジアの他の国々を歩けば、冷たいココナッツジュースや甘いお茶、あるいは怪しげな色彩の炭酸飲料を売る露店ならいくらでも見つかる。しかし、それらの甘味には一切目もくれず、ただの「水」そのものを商品として売っている光景には、そうそうお目にかかれるものではない。そもそもミャンマーには、古くから路傍に水瓶を置いて通りすがりの人に無償で水を提供する「イェチャン」という美しい布施の文化がある。そんなタダで水を飲める功徳の国において、あえて有料の水売りが商売として成立しているのだから、現金な世の中になったものである。

その功徳の国で有料の商売に励む彼のバケツの脇には、プラスチック製の漏斗やコップがいくつも重ねて置かれていた。緑色のロンジーを腰に巻き、上には車のイラストが描かれたくたびれたTシャツを着た彼は、僕のカメラを前にしても一切物怖じしない。それどころか、ちょっと小生意気な、しかしどこか誇らしげな眼差しを真っ直ぐにこちらに向けてきた。

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ENGLISH
2010年9月 ミャンマー 人びと
飲み物 男の子 バケツ コップ ロンジー 腕時計 ヤンゴン

PHOTO DATA

No

4612

撮影年月

2010年3月

投稿日

2010年09月22日

更新日

2026年07月17日

撮影場所

ヤンゴン / ミャンマー

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

RICOH GR DIGITAL

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