クラクションが鳴り響くヤンゴンの喧騒の中、歩道を歩いていた。この都市の水道事情はなかなか一筋縄ではいかない。かつてイギリス植民地時代に整備された水道管はとうに老朽化している。そのため、蛇口から出る水は鉄錆や泥で茶褐色に濁っていることが多いのだ。現地の人々であっても、水道水をそのまま口にするような命知らずは滅多にいない。そんな水に不自由する通りを歩いていると、歩道の片隅に大きなプラスチックの黒いバケツを置き、その傍らにポツンと佇んでいる一人の男の子と出くわした。彼の頬には、日除けとスキンケアのために「タナカ」が白く塗りつけられている。
そのタナカを頬に塗った男の子が守るバケツの様子を、僕は少し離れた場所から覗き込んでみた。中にはなみなみと澄んだきれいな水が湛えられている。どうやら彼は、この路上で通行人に向けて飲み水を売る、いわゆる水売りの商売をしているらしかった。東南アジアの他の国々を歩けば、冷たいココナッツジュースや甘いお茶、あるいは怪しげな色彩の炭酸飲料を売る露店ならいくらでも見つかる。しかし、それらの甘味には一切目もくれず、ただの「水」そのものを商品として売っている光景には、そうそうお目にかかれるものではない。そもそもミャンマーには、古くから路傍に水瓶を置いて通りすがりの人に無償で水を提供する「イェチャン」という美しい布施の文化がある。そんなタダで水を飲める功徳の国において、あえて有料の水売りが商売として成立しているのだから、現金な世の中になったものである。
その功徳の国で有料の商売に励む彼のバケツの脇には、プラスチック製の漏斗やコップがいくつも重ねて置かれていた。緑色のロンジーを腰に巻き、上には車のイラストが描かれたくたびれたTシャツを着た彼は、僕のカメラを前にしても一切物怖じしない。それどころか、ちょっと小生意気な、しかしどこか誇らしげな眼差しを真っ直ぐにこちらに向けてきた。
| 2010年9月 ミャンマー 人びと | |
| 飲み物 男の子 バケツ コップ ロンジー 腕時計 水 ヤンゴン |
No
4612
撮影年月
2010年3月
投稿日
2010年09月22日
更新日
2026年07月17日
撮影場所
ヤンゴン / ミャンマー
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
RICOH GR DIGITAL