編笠をかぶった女性がリヤカーを牽いていた

リヤカーを牽く女
リヤカーを牽く女

南国のねっとりとした熱気が体にまとわりつくベトナムのベンチェーで、路地を徘徊していた。この町はメコンデルタの豊かな自然に抱かれ、ヤシの木がどこまでも生い茂るのどかな土地だ。しかし、一歩路地に入れば容赦のない直射日光が脳天を直撃する。そんな中、向こうから歩いてくる年配の女性の頭に、独特の円錐形をしたお馴染みの編笠がちょこんと乗っているのが見えた。ベトナム名物であるこの「ノンラー」と呼ばれる帽子は、ヤシの葉を天日干しにして竹の骨組みに丁寧に縫い付けたものだ。日除けはもちろんのこと、突然のスコールを防ぐ傘にもなり、時には仰いで団扇の代わりにもなる。万能のサバイバルギアを頭に乗せた彼女は、僕の歩く行く手を遮るように近づいてきた。

著者 : 小松みゆき
そらの子出版
発売日 :

その万能の編笠を目深にかぶって近づいてくる彼女は背筋をピンと一文字に伸ばし、全身の力を込めて一台の大きな荷車を牽いていた。車上には、錆びた鉄くずや古いプラスチック容器など、山のようなガラクタがこれでもかと積み上げられている。彼女はこの雑多なコレクションを近くの屑鉄屋へと運び、今日の糊口を凌ぐための端た金に換えようとしているのだろう。これだけの重労働でありながら、一歩一歩踏みしめる足取りには不思議な気品すら漂っている。一介の暇な異国人旅行者にすぎない僕が横でカメラを構えていようとも、彼女は木石のように全く目もくれず、あっという間に僕の横を通り過ぎていった。

僕を綺麗に無視して無言で通り過ぎていった彼女の、無駄のない働きぶりを背後から見送る。ベトナムの街を歩いていると、このように男性顔負けの過酷な肉体労働に平然と従事している女性の姿に、実によく出くわす。特に青物市場の露店などを覗けば、売り手の八割以上が逞しいおばさんたちで占められている。これが長年の母系社会的な伝統文化によるものなのか、あるいは「すべての労働者に平等を」と謳う社会主義的なスローガンの名残なのかは、僕の薄っぺらい頭では判断がつかない。社会主義国における女性の労働率の高さは世界的に有名だが、それは家庭と仕事の二重の義務を背負わされているだけではないかとも勘繰りたくなるのだった。

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ENGLISH
2009年6月 人びと ベトナム
ベンチェー 荷車 編笠 老婆

PHOTO DATA

No

2925

撮影年月

2009年3月

投稿日

2009年06月27日

更新日

2026年07月15日

撮影場所

ベンチェー / ベトナム

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

CANON EOS 1V

レンズ

EF85MM F1.2L II USM

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