東京のど真ん中にある築地の場内市場に足を運んだのは、とっくに大方の取引も終わった頃合いである。大半の仲買人の店はとうに店じまいを始め、水で流されたコンクリートの床が鈍く光っているばかりだ。市場の朝はバカバカしいほど早く、時間が少しずれるだけであっという間に活気を失ってしまう。時間を間違えたよそ者にはひどく冷たい場所である。それでも諦めきれずに薄暗い通路を当てもなくうろついていると、まだ律儀に立ち働いている奇特な店もちらほらと見かけるのだ。
そのまだ律儀に立ち働いている奇特な店のひとつに、お揃いの薄緑色のポロシャツを着た三人の男たちがいた。彼らの目の前のまな板には、柵と呼ぶにはあまりにも巨大なマグロの赤い肉塊がどしんと横たわっている。マグロは部位によって味が異なり、江戸時代には脂の多いトロは下魚として捨てられていたという。目の前にある巨大な塊がかつて捨てられていた脂身なのか、重宝された赤身なのか、素人の僕には見当もつかない。ただ、三人がかりで格闘しなければならないほどの大物であることだけは確かだ。
その三人がかりで格闘しなければならないほどの大物を前にして、彼らは一言も無駄口を叩かない。真ん中の男が全体に体重をかけてマグロをしっかりと押さえ込み、右側の男が長い包丁に渾身の力を込めて鈍い刃を入れている。奥の男も絶妙な位置でサポートに入り、三人の息は気味が悪いほどばっちりと合っている。僕は魚の身など、包丁をスッと引けば豆腐のように切れるものだと勝手に思い込んでいた。しかし、実際の巨大なマグロの身は思いのほか固く、解体というよりはむしろ木材でも切り出すような重労働らしい。
| 2016年11月 食べ物 東京 | |
| 魚 魚市場 男性 三人組 築地 |
No
9928
撮影年月
2016年9月
投稿日
2016年11月06日
更新日
2026年05月15日
撮影場所
築地 / 東京
ジャンル
スナップ写真
カメラ
SONY ALPHA 7R II
レンズ
EF85MM F1.2L II USM