ホーチミン市の大通りから一本外れた細い路地を歩いていると、制服姿の子どもたちがぞろぞろと現れた。どうやら学校帰りらしい。ランドセルは見当たらず、教科書を抱えた者や小さなリュックを片肩に掛けた者が多い。歩き方はやけに軽快で、全員が小走り気味なのは、家で待つおやつか、宿題という名の罰ゲームか、どちらに急いでいるのか判然としない。ベトナムの午後は容赦ない日差しが照りつけ、帽子も被らずに歩く姿は、南国仕様の耐熱構造とでも呼ぶべきか。
私が首から提げた一眼レフを見つけるや、彼らの速度はさらに上がった。元気なだけでなく、どうも興奮している。カメラというものは、子どもにとって一種の鏡であり、そこに映された自分はなぜか世界記録の証拠写真にでもなる気分らしい。私の前に割り込み、ポーズを決め、口々にベトナム語で何かを叫ぶ。意味は分からないが、音量と語気から推測するに、「早く撮れ」と「俺も入れろ」が半々といったところだ。
ちなみに、ホーチミン市では集団登下校という制度はあまりなく、友人同士で思い思いに帰る。ベトナムの小学校は午前・午後の二部制が多く、昼休みに家へ戻るのも日常茶飯事だ。つまり、この賑やかな行列は一日に二度現れる可能性がある。レンズ越しに見えるのは、笑顔と埃っぽい路地、そして午後の光に白く縁取られた彼らの影。その一瞬は、彼らの記憶よりも、私の記録のほうがしぶとく生き残るに違いない。
2009年6月 人びと ベトナム | |
陽気 ホーチミン市 こども 活力 |
No
2892
撮影年月
2009年3月
投稿日
2009年06月16日
更新日
2025年08月13日
撮影場所
ホーチミン市 / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM