バイクの上で膝を抱えた男が僕を見て微笑んだ

バイクの上で膝を抱えた男
バイクの上で膝を抱えた男

ホーチミン市の裏通りをぶらついていると、ふと路地の入口に、バイクの上で足を抱えて座る男がいた。特に何をするでもなく、エンジンもかけず、ただバランスの良い置物のようにそこにいる。ベトナムの路地は、こういう「何もしない時間」が堂々と存在できる場所だ。暑さの中で急ぐことは、どう考えても体に悪いし、そもそも急ぐ理由がなければ急がないというのが、この国の生活の基本法則らしい。

カメラを向けると、男は少しはにかみながら笑った。その笑顔は営業用ではなく、通りすがりの旅人に向ける「まあ、撮るなら撮れ」という程度の気安さを帯びている。背後の壁は長年の風雨でくすみ、窓には木製の雨戸が残っている。バイクは年季の入ったホンダで、ナンバープレートの書体がやけに堂々としていた。

路地の奥では、子どもたちが遊んでいる。日本の感覚だと車が通れないような幅だが、こちらではバイクが平然と走り抜ける。ベトナムではバイクが単なる移動手段ではなく、椅子、商売台、恋人との二人乗りのための舞台装置としても機能する。さらに言えば、バイクの上で足を抱えて座るのは、もしかすると長時間停車時の腰痛予防に効果があるのかもしれない。そんな根拠のない推測をしてみても、男は変わらず笑顔のまま、午後の陽射しの中で静かに揺れていた。

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ENGLISH
2009年6月 人びと ベトナム
路地 ホーチミン市 男性 バイク

PHOTO DATA

No

2891

撮影年月

2009年3月

投稿日

2009年06月15日

更新日

2025年08月13日

撮影場所

ホーチミン市 / ベトナム

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

CANON EOS 1V

レンズ

EF85MM F1.2L II USM

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