プネーの街を歩いていると、車道と歩道の間にフェンスがずらりと並んでいた。インドの都市ではあまり見かけない光景で、妙に目を引く。だがそのフェンスはどれもくたびれていて、真っ直ぐに立っているものはほとんどない。傾いたり歪んだりして、まるで自分の存在意義を持て余しているかのようだ。新品のときは「秩序」を象徴していたのかもしれないが、今ではただの景観の一部として諦め半分で街角に残っている。
そのフェンス沿いに歩いていると、色鮮やかなサリーをまとった恰幅のいい女性が道端に腰を下ろしていた。黄色に白とピンクの模様が入った布は、周囲の埃っぽい景色の中でやけに鮮烈に映えている。額には真紅のビンディが輝き、鼻には小さな鼻ピアスが光っていた。インドでは鼻ピアスは装飾品であると同時に伝統的な文化的意味を持ち、結婚や家族とのつながりを象徴することもあるらしい。女性は黙って僕の方を見たが、特に用件を告げるでもなく、ただそこにいることを選んでいるようだった。
思えばプネーは古くから学術都市として知られ、西洋文化の影響も色濃く受けながらも、こうして路地に腰を下ろす女性の姿には昔ながらの生活がにじみ出ている。彼女がフェンスに興味を持っているわけではないのは確かで、僕が勝手にそれを仲間にしたくなっただけだ。街角で擦れ違う「色鮮やかなサリー」「ビンディ」「鼻ピアス」、そうした断片が折り重なってインドの日常は成り立っている。観光案内のパンフレットでは決して強調されない光景だが、そういうものこそがこの国を歩く楽しみなのかもしれない。
2011年3月 インド 人びと | |
ビンディ 塀 鼻ピアス プネー サリー 女性 |
No
5248
撮影年月
2010年10月
投稿日
2011年03月02日
更新日
2025年09月09日
撮影場所
プネー / インド
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
RICOH GR DIGITAL