上海の路地を歩いていると、頭上に注意を払う癖がつく。理由は単純で、空を見上げるとそこには雲ではなく洗濯物があるからだ。中国の都市生活において、洗濯物は空中に干される運命を与えられているらしい。写真の路地でも、両側の建物から張り巡らされたロープに、シャツやズボン、正体不明の布切れまでが所狭しとぶら下がっている。洗濯というより、展示に近い。
最初は、たまたまそういう生活感の強い路地に迷い込んだのだと思った。しかし上海を歩き回るうちに、それが誤解であることに気づく。ここでは路地こそが生活の延長線であり、屋内と屋外の境界は日本ほど厳密ではない。集合住宅が密集する都市構造では、日当たりの良い場所は貴重で、結果として洗濯物は重力に逆らって外へと追い出される。都市計画と家事動線の、あまり文学的でない妥協の産物である。
濡れた洗濯物の下を歩くと、ときおり水滴が落ちてくる。日本なら苦情の一つも出そうな場面だが、地元の人は誰も気に留めない。避けるでもなく、文句を言うでもなく、ただ黙って通り過ぎる。洗濯物があるという事実は、天気と同じくらい日常的なのだろう。ちなみに、昔の上海では井戸や共同水場が路地にあり、洗濯は近所同士の共同作業だったという。干し場もまた共有され、その名残が今も空中に残っているわけだ。
| 2008年9月 中国 町角 | |
| 路地 雫 洗濯物 上海 |
No
1966
撮影年月
2008年6月
投稿日
2008年09月04日
更新日
2026年01月15日
撮影場所
上海 / 中国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM