スリランカ南部に位置する、ゴールの旧市街を歩いていた。ここは17世紀にオランダ人が築いた重厚な城壁(フォート)に囲まれた、世界遺産の街である。世界遺産などという大層な指定を受けると、普通は街全体が博物館のように気取ってしまうものだが、ここは少し様子が違う。堅牢な要塞の内部には現在も多くの民家がひしめき合い、地元の人々が洗濯物を干したり世間話をしたりと、ごく普通に日常を営んでいるのだ。かつて植民地支配の拠点だった要塞が、今や市民の生活の場としてたくましく乗っ取られているあたり、歴史の皮肉を感じずにはいられない。
その歴史の皮肉を感じさせる生活感溢れる旧市街の路地を進んでいくと、向こうから朗らかな女の子の二人組が歩いてきた。僕が手に持った四角いカメラに気づくと、彼女たちは目ざとく足を止め、興味津々といった様子でこちらをじっと見つめてくる。すかさずレンズを向けてみると、待ってましたと言わんばかりに、二人揃って満面の笑みを浮かべてくれた。写真の歴史において、かつて人びとがカメラの前で引き締まった真面目な顔をしていたのは、初期のカメラの露光時間が長かったからという実用的な理由からだそうだ。しかし目の前の女の子たちは、長い露光時間を待つまでもなく、一瞬でとびきり陽気な笑顔を作ってみせる。
その一瞬でとびきり陽気な笑顔を作ってくれた二人のうち、右側の女の子の耳元にふと目をやると、小さなピアスがキラリと光っていた。この地域では、子どもがまだ幼いうちに耳たぶに穴を開けてピアスを装着させる風習が根強く残っている。これは単なるお洒落ではなく、魔除けや病気予防の意味が込められた伝統的な儀式なのだ。伝統医学のアーユルヴェーダにおいても、耳たぶのツボを刺激することが健康維持に繋がると考えられているらしい。重厚な世界遺産の街並みの中で、幼い女の子の耳元で揺れる小さなピアスは、この土地の古い生活の知恵を静かに物語っていた。
| 2008年7月 人びと スリランカ | |
| 陽気 二人組 ゴール 女の子 ピアス 笑顔 |
No
1820
撮影年月
2008年3月
投稿日
2008年07月18日
更新日
2026年07月25日
撮影場所
ゴール / スリランカ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM