ヤシの木が生い茂るベトナム南部のベンチェーを歩いていた。路傍に目をやると、大きなバスが停車している。どうやらエアコンという名の文明の利器は搭載されていないか、あるいは壊れているらしい。熱気がこもる車内を冷ますためだろう、どの窓も全開になっていた。その開け放たれた窓際の席に腰掛けて、涼しい風を待っている一人の女の子の姿が、僕の目に留まった。長い髪を細かく編み込んだ、見事な三つ編みをした女の子だった。
その長い髪をきれいに三つ編みにした女の子がたたずむ車窓を、僕は立ち止まってじっと観察した。そもそもベトナムの地方を走る長距離バスや路線バスは、年季の入った車両が多く、窓を開けて走るのがごく普通の日常風景だ。こうした窓から入る風は生温いが、エンジン音とともに髪をなびかせるのは心地よい。彼女の肩から前に垂れ下がった黒髪の編み込みは、実にきっちりと整えられている。額の生え際を可愛らしいピンで留め、白いノースリーブを身にまとった姿は、蒸し暑い車内において少し涼しげに映る。かつてフランス植民地時代の影響を強く受けたベトナムでは、フランス風の髪型やお洒落が形を変えて庶民の間に浸透した歴史がある。この子どもも、お母さんに朝早くから丁寧に髪を結ってもらったのだろう。
そんなお洒落で少し大人びた彼女を写真に収めようと僕がカメラを構えて近づくと、気配を察した女の子が不意に僕の存在に気がついた。彼女は窓から身を乗り出すようにして、じっと僕を凝視し始めた。突然知らない外国人の男がレンズを向けて近づいてきたのだから、びっくりするのも無理はない。少しだけ開いた口元と、見開かれた黒い大きな瞳が、その動揺と好奇心の入り混じった複雑な心境を物語っていた。
| 2009年6月 人びと ベトナム | |
| ベンチェー 三つ編み バス 車窓 女の子 ピアス |
No
2923
撮影年月
2009年3月
投稿日
2009年06月26日
更新日
2026年07月15日
撮影場所
ベンチェー / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM