スリランカ南部に位置する世界遺産の街、ゴールの旧市街の路地を歩いていた。古い洋風建築が並ぶこの街は、住民の多くが仏教徒かイスラム教徒である。そんな街角で、一人の古風なおじいさんが小さな赤ちゃんを大切そうに抱っこしている姿に出くわした。その赤ちゃんの眉間をよく見ると、大きくて真っ黒なビンディがひとつ、ドカンと塗りつけられている。本来ビンディはヒンドゥー教の「第3の目」を意味するものだが、幼い子どもの眉間に塗る黒い印には、他人の妬みや悪霊の視線から身を守る「魔除け」の役割もあるという。
その悪霊の視線から身を守るための大きな黒いビンディをつけた赤ちゃんに向けて、僕は静かにカメラを構えてみた。抱えていたおじいさんは、異国の男が向けたカメラに気づくと、赤ちゃんに笑顔を見せてもらおうと必死に「あやし」始めた。眉を下げ、優しく声をかけ、一所懸命に笑いかけている。おじいさんの必死な努力は傍から見ていて微笑ましい限りだったのだが、抱っこされている当の赤ちゃんはといえば、そんな身内の努力などどこ吹く風であった。
そのおじいさんの必死な努力をことごとく無視した赤ちゃんは、両耳にチョコンと小さな金属のピアスを輝かせながら、カメラを向ける僕を正面からじっと見つめ返してきた。ちなみに南アジアでは、魔除けや健康祈願のために子どもの幼少期に耳へピアスを開ける風習が古くから伝わっている。彼女の可愛らしい耳に光るピアスもその表れなのだろうが、肝心の表情はといえば、完全に「への字」に固まった不満気な口元であった。おじいさんがいくら横から笑いかけても、眉間に黒い丸を載せたまま、不機嫌そうな視線を僕へ向け続けていた。
| 2008年7月 人びと スリランカ | |
| 赤ちゃん ビンディ ゴール おじいさん ピアス |
No
1819
撮影年月
2008年3月
投稿日
2008年07月18日
更新日
2026年07月25日
撮影場所
ゴール / スリランカ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM